ブナシメジの熱水抽出物がガンの増殖を75%も阻止

マウスを3群に分け、第1群(正常対照群)には生理食塩水をおなかに注射します。第2群(対照群)には、抗ガン剤マイトマイシンCで増殖力を抑えたルイス肺ガン(LLC)と呼んでいる実験用のガンを移植したあと、生理食塩水をおなかに注射します。

第3群(ブナシメジ群)には、同じくマイトマイシンCで処理したLLCを移植後、ブナシメジの熱水抽出物をおなかに注射しました。こうして1日1回、10 日間の注射を終えたあと、すべてのマウスから牌臓を摘出し、細胞をとり出しました。牌臓は一種のリンパ節のような器官で、リンパ球が密集していますから、とり出された牌臓細胞はリンパ球のかたまりといっても.いいものです。

正常対照群にくらべ、対照群ではLLCの移植により、脾臓細胞がガン抗原を認識し始めることが予想されます。もしブナシメジの熱水抽出物に免疫賦清作用があるとすれば、ブナシメジ群の牌臓細胞はガン抗原の認識に加えて、その活性も高まっていることが予想されるわけです。

そこで、それぞれの牌臓細胞とLLCを100対1の比率でまぜたものを、再び各群のマウスに移植したあと、19日日にガンを摘出し、その重さを比較してみたのです。

正常対照群にくらべ、あらかじめLLCを注射された対照群ではガンの増殖が27%阻止されていました。これに村して、ブナシメジ群では増殖阻止率が75%にものぼっていたのです。

この実験から、ブナシメジの熱水抽出物にはたしかにガンを攻撃する免疫システムを克進する作用のあることが証明されたわけです。

では、ガンを移植したマウスにブナシメジそのものを食べさせてみたら、、どうなるでしょうか。ブナシメジの熱水抽出物に含まれていた活性成子おそらくは糖タンパクが、ブナシメジを食べた場合にも体内に摂取され、ガンとの闘いで疲弊したマウスの免疫システムを賦活して、ガンの増殖を抑えこむ効果が期待されます。

ガンの予防対策と増殖抑制作用を高める

エノキタケの糖たんぱくはT細胞を活性化する

マウスに植えつけたガンの増殖がエノキタケの糖タンパク(EA6)を摂取することによって、最大59%も阻止されるのを確かめました。しかも、EA6にはガン細胞を直接破壊する細胞障害性がないことなどから、EA6によるガンの増殖抑制作用は、免疫システム(本章で用いた言葉でいえば、治安維持システム) の賦括を介してもたらされることを明らかにしました。そこから先、EA6 がどのようにして免疫システムを賦活するかのメカニズムはまだ解明されていませんが、少なくとも次のような事実はわかっています。

マウスにサルコマ180を二度にわたって移植すると、そのガン細胞の増殖を抑えこむためにリンパ球のT細胞がくたびれ、活性が著しく低下してきます。

ところが、この二度の移植の間にEA6を1日10 mg(体重1kg当たり)摂取させたマウスは、T細胞の活性の低下を防げる傾向を示したのです。

では、EA6の摂取がどのようにしてT細胞を活性化したかということになりますが、別の実験ではEA6の摂取によって、マクロファージの活性が高まり、ヒトのB細胞に相当する抗体産生細胞の数がふえることも確認されています。これらの結果から、消化吸収されたEA6の断片(またはEA6そのもの)に対して食作用を発揮したマクロファージが活性化され、その活性化マクロファージがT細胞などを刺激して治安碓持システム全体を底上げするものと推測することもできるでしょう。

エノキタケについては、実際に私たちがエノキタケを食べた場合にも、EA6の断片が消化吸収され、このようなメカニズムで体内の治安維持システムを賦活しているにちがいないことが、疫学調査の結果からも裏づけられています。

では、他のきのこたちはどうでしょうか。熱水抽出物をマウスのおなかに注射すると、サルコマ180の増殖阻止率でエノキタケと同等もしくはそれ以上の効果を示したマツタケ、ナメコ、シイタケなどにも私たちは治安維持システムの賦清作用を期待できるのでしょうか。

その可能性はあると思います。というのも、EA6と構造はまったく異なるものの、糖とタンパク質がさまざまな形で結びついた多種類の糖タンパクを、これらのきのこも含んでいるからです。

熱水抽出物をマウスのおなかに注射することによってガンの増殖が阻止されたのですから、この実験だけでも、熱水抽出物が免疫賦活に働いている可能性が高いといえますが、その作用をもっと明白にするには、少なくとも次の2つの研究が必要です。第一に、熱水抽出物を注射した際、免疫のパラメーター(リンパ球の活性、数など) がどう動くかを調べること。

そして第二に、熱水抽出物の注射でも経口投与でもなく、きのこそのものを食べた場合に、免疫賦清作用が得られることを証明することです。後者の証明のために、どなたかにきのこを食べてもらい、その前後に採血して免疫のパラメーターを調べることは、実際問題、臨床的にはほとんど不可能です。

そこで、エノキタケについて行ったような疫学調査が参考になりますが、その場合、あるきのこをよく食べる人のガン死亡率が低いことが疫学調査で証明されたとしても、そのガン死亡率の低下がきのこの発ガン抑制効果に起因するものか、あるいはガンの増殖抑制効果に起因するものか、判然としないのが難点です。

むしろマウスにきのこ自体を食べさせて、移植したガンの増殖が抑えられれば、そのきのこけつの免疫賦清作用を直接証明することになるでしょう。

治安維持システムは体の老化に伴い弱体化する

このようにガン細胞を標的とするキラーT細胞やNK細胞が、私の体にも、あなたの体にも備わっています。なぜ私たちの体は、こんな仕組みを備えたのでしょうか?

発ガンのメカニズムについて紹介しました。ガン化の引き金は、細胞の分裂増殖をコントロールして私たちの体を生命として成り立たせている遺伝子のなかにありました。

そして、その引き金をひくのは、私たちが生きていくのに欠かせない酸素が不安定になった活性酸素でした。ガン細胞を排除する治安維持システムを私たちの体が備えているということは、私たち人類がガンになる可能性をいつも持っている動物であることを物語っているといえないでしょうか。

必ずガンになるといっては語弊がありますが、私たちの体内では一生の間に、一度ならずガン細胞が生まれてはリンパ球の働きで排除されているにちがいないということです。

私たちの体を構成する60兆個の細胞のうち、一生の間にガン化する可能性のある細胞が100億個ほどあるだろう、と見積もっている研究者もいます。その100億個すべてがガン化するわけではないにしても、私やあなたの体内にすでに1個や2個はガン細胞ができていても不思議はないのです。

ガン細胞が1個や2個であれば、マクロファージやNK細胞の出動だけでガン細胞を破壊し、その芽を摘むことができると考えられます。もしマクロファージやNK細胞の監視をかいくぐってガン細胞が活発に増殖し始めれば、ヘルパーT細胞やキラーT細胞がガン細胞を包囲し、特異的免疫による攻撃が開始されます。

私やあなたが今日までガンにならずにすんできたということは、体内にガン細胞がまったくできなかったというよりも、体内にできたガン細胞がこうした免疫監視機構すなわち治安維持システムのおかげで速やかに排除されてきた結果と考えるほうが自然です。

ところが、その頼みの綱の治安維持システムは、体の老化に伴い、急速に弱体化することが知られているのです。NK細胞の活性(細胞障害怪)の加齢変化です。

細胞障害性とは、ガン細胞を攻撃して破壊する能力と思っていただけばいいのですが、NK細胞の細胞障害性は20歳前後をピークとして、あとは坂を転がり落ちるように低下しているのがわかります。

では、ヘルパーT細胞やキラーT細胞による特異的免疫はどうかといいますと、やはり加齢に伴い、胸腺が萎縮して機能が衰えることが知られています。

胸腺は未成熟のT細胞にスバルタ教育を施し、高度に特異的な免疫機能の担い手として送り出す教育機関ですから、胸腺の機能が低下すれば、送り出されるヘルパーT細胞やキラーT細胞たちも、ガン抗原を十分に認識できなくなったり、その数自体も減るなど、働きが十分ではなくなるのです。

ガンの原因は、発ガン物質などの外因よりも、むしろこのような体内の治安維持システムの弱体化にあるという見方もできるのです。

正常細胞の発ガンの場面についていえば、体内に発生するフリーラジカルを速やかに消去して、ガン化の可能性がある100億個の正常細胞のうち実際にガン化する細胞を1個でも少なくすることが、ガンの予防になります。

しかし同時に、100億個のうち数個がすでにガン化し、活発に増殖を始めた場面をも想定しておかねばなりません。この場面では、治安維持システムを賦括化し、その弱体化をくい止めることがガンの予防につながると考えられるのです。