呼吸で取り込んだ酸素が有害な悪玉酸素に化ける

20億年前の地球に藍藻類が大繁殖して酸素を生み出したとき、その酸素は他の生物にとっては猛毒で、ほとんどの生物が死滅したことを先ほどお話ししました。

私たちは今、酸素がなければ1日たりとも生きることができませんが、それは気の遠くなるような長い進化の過程で、酸素を利用しながら同時にその「毒」を中和する術を身につけた結果なのです。

酸素に物質を酸化する作用があることはどなたもご存じでしょう。鉄をサビつかせたり、ハムやチーズなどの切り口を変色させたり、コーヒー豆をまずくしたり、天ぶら油を黒ずませたりと、酸化作用はどちらかといえば、ありがたくないものです。

ありがたい作用としては、オキシドール(過酸化水素水)による傷口の消毒があります。これは過酸化水素が分解するときに発生する酸素によって、傷口の細菌を死滅させる作用です。
破傷風菌のような嫌気性生物にとっては、酸素は今でも猛毒なのです。

私たちの体の仕組みは嫌気性生物とはまるで異なりますが、それでも酸素の「毒」から完全に逃れられたわけではありません。

呼吸によってとりこんだ酸素は、血液によって全身の細胞に供給され、細胞はこの酸素と栄養をエネルギーに換えることで生命活動を営んでいます。こうして細胞にとりこまれた酸素のうち、ごくわずかな量が活性酸素という不安定な酸素に化けることが知られているのです。

活性酸素の代表的なものの1つは、「スーパーオキシド」と呼ばれる酸化作用の強力な酸素で、細胞がエネルギーをつくる化学反応でもたえず発生しています。スーパーオキシドは細胞の内外での化学反応をへて、酸化作用がスーパーオキシドのさらに数十倍に強まった「ヒドキシルラジカル」と呼ばれる悪玉酸素に化けることも明らかにされています。

酸素分子は普通、16個の電子を持っていて、そのすべてがペア(対)になって原子のまわりを回っています。ところが、スーパーオキシドやヒドロキシルラジカルの分子には、ペアからあぶれた電子があります。

このあぶれた電子のことを不対電子といいます。不対電子は、ペアとなっている電子の仲を引き裂いて自分がペアになろうとする「不倫電子」です。したがって、不対電子があるということは、その物質の状態が非常に不安定だということです。不安定というのは、他の物質とすぐさま反応して、その物質から電子を奪い、すべての電子をペアにして安定したがっているということです。

みなさんは昔、学校で、酸素が他の物質と結合することを酸化というのだと習ったかと思いますが、もう少し進んだ化学の定義では、こうして電子を奪うことを「酸化する」といい、電子を奪われることを「酸化される」というのです。

つまりスーパーオキシドやヒドロキシルラジカルは不対電子があるおかげで、普通の酸素にくらべはるかに強力な酸化作用を他の物質に及ぼすのです。

このように不対電子を持つ不安定な原子や分子のことを「フリーラジカル」とも呼んでいます。フリーは「自由な」、ラジカルは「過激分子」という意味ですから、「自由な過激分子」という直訳がそのまま、スーパーオキシドやヒドロキシルラジカルのようなフリーラジカルの性格をよく表現しています。

体内で発生する活性酸素はほかにもありますが、スーパーオキシドやヒドロキシルラジカルはなかでも著しく反応性が高いため、細胞にさまざまな悪さをするのです。

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