T細胞 胸腺 で鍛えられて分化します。T細胞は骨髄で生まれたあと 胸腺 へ送られて成熟T細胞となります。胸腺は、血管の道路網の中心である心臓のそばにある小さな器官ですが、T細胞はここで特異的免疫の担い手としてのスバルタ教育を受け、それぞれちがった役割を分担する数種類の精鋭部隊に分化するのです。
T細胞 胸腺 で鍛えられる
たとえばヘルパーT細胞と呼ばれる部隊は、マクロファージが食作用によって認識したガン細胞のかけら(抗原)をマクロファージから受けとり、これをB細胞やキラーT細胞に示します。
特異的免疫が非特異的免疫と異なるのは、標的をしっかり見定めて攻撃を仕掛ける点にありましたが、その特異的免疫に欠かせない抗原認識をマクロファージが行い、ヘルパーT細胞が仲介しているのです。
ヘルパーT細胞は同時に、インターロイキン2と呼ばれる物質を血中に放出します。このインターロイキン2は、B細胞に働いて抗体の産生を助けたり、次に述べるキラーT細胞に攻撃命令を出したり、NK細胞を活性化したりと、治安維持システム全体を賦活する作用をするのです。
ヘルパーT細胞がこのように特異的免疫のすぐれた「助っ人」として働くのに対して、キラーT細胞は名前の通り「殺し屋」の部隊です。それも、ガン細胞や肝炎ウィルスのもぐりこんだ細胞など、私たちの体にとって有害化した異常細胞を排除する専門の殺し屋として働いているのです。
ガン細胞とひとくくりにしていいますが、その顔の特徴(抗原)はガンのできた臓器などによって異なり、いろいろです。
キラーT細胞は、マクロファージからヘルパーT細胞を介して情報を得た特定のガン細胞の顔をおぼえて、いっせいにとり囲み、破壊します。
しかし、このガン細胞の顔を認識するということが、実際にはそう簡単ではないのです。ガン抗原の多くはガン細胞の表面などにあらわれるタンパク質ですが、正常細胞の表面にもよく似たタンパク質が存在します。
ガン細胞はもともと正常細胞から生まれたものですから、抗原となるタンパク質との差異はごくわずかにすぎません。
免疫の専門家はしばしば、自己と非自己という言葉を使いますが、秩序ある社会を構成している60兆の人(自己) から、ひそかに数をふやしつつある撹乱者(非自己)をいかにすばやく正確に見分けるかに、特異的免疫の成否がかかっているのです。
もし自己と非自己の識別がうまくいかないと、キラーT細胞がガン細胞などの異常細胞(非自己) のみならず正常細胞(自己)まで攻撃し始め、膠原病などの自己免疫疾患の原因となることもありえます。
このため、克進したキラーT細胞の働きを抑制するサブレッサーT細胞なる抑え役も、T細胞の一部隊として配備されています。
体内の治安維持システムで、もう一つふれておかねばならないのがNK細胞です。このNK細胞は主に特異的免疫を担うリンパ球のなかでは変わり種で、特異的免疫とマクロファージによる非特異的免疫との中間的な位置にいます。
NK細胞の働きは、特定のガン細胞の抗原を認識して攻撃を仕掛けるキラーT細胞とは異なり、ガン細胞であれば何でも手当たりしだいに破壊する、いわばガン細胞の天敵と考えられています。このため、英語のナチュラル・キラー(直訳すれば「生まれながらの殺し屋」)の頭文字をとってNKというあだ名で呼ばれているのです。
T細胞が胸腺で「鍛えられ文化する」プロセス
T細胞の元となる細胞(T系前駆細胞)は、骨髄でつくられた後、血液に乗って胸腺へとやってきます。胸腺に入ったT系前駆細胞は、そこで厳しい「教育」を受け、初めて一人前のT細胞として働くことができるようになるのです。このプロセスは、主に以下の段階で進みます。
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分化と増殖:
胸腺に到達した未熟なT細胞(胸腺細胞、thymocyte)は、胸腺内の微小環境(胸腺上皮細胞や線維芽細胞などからなる「ストロマ細胞」が形成する場)で、様々なシグナルを受けながら増殖し、分化の初期段階へと進みます。この段階で、T細胞の表面にあるT細胞受容体(TCR)の遺伝子が再編成され、それぞれ異なる抗原(病原体などの目印)を認識できるよう、多様なTCRが作られます。 -
正の選択(Positive Selection):
TCRが作られたT細胞は、次に胸腺上皮細胞によって提示される自己のMHC分子(主要組織適合性複合体)を適切に認識できるかどうかを試されます。-
適切に自己MHCを認識できるT細胞のみが生き残ることを許されます。このMHCとは、細胞が「自分」であることを示す目印のようなもので、このMHCに病原体の断片が提示されることで、T細胞は異物を認識します。
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全くMHCを認識できないT細胞や、MHCへの結合が弱すぎるT細胞は、この段階で排除(アポトーシス:プログラムされた細胞死)されます。これにより、機能しないT細胞が無駄に増えることを防ぎます。
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負の選択(Negative Selection):
正の選択を生き残ったT細胞は、次に「自己を攻撃しない」という最も重要な教育を受けます。-
胸腺上皮細胞などが提示する様々な自己抗原に対して、強く反応してしまうT細胞は、自己免疫疾患(自分の体を誤って攻撃してしまう病気)の原因となるため、この段階で排除されます。
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このプロセスによって、末梢のリンパ組織に放出されるT細胞は、異物のみを攻撃し、自己の組織は攻撃しないという「自己寛容性」を獲得します。
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サブタイプへの分化:
厳しい選択を通過したT細胞は、その後、機能的なサブタイプへと分化します。主なT細胞のサブタイプには以下のものがあります。-
ヘルパーT細胞(CD4陽性T細胞): 免疫反応の司令塔として、他の免疫細胞を活性化させる役割を担います。
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キラーT細胞(細胞傷害性T細胞、CD8陽性T細胞): ウイルスに感染した細胞やがん細胞などを直接攻撃し、排除します。
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胸腺の役割と加齢による変化
胸腺は、T細胞の「学校」として、私たちが生まれてから思春期頃まで最も活発に機能します。思春期を過ぎると胸腺は徐々に退縮し始め(胸腺の退縮)、T細胞の産生能力も低下していきます。これが、加齢とともに免疫力が低下する一因と考えられています。