遺伝情報 4種類の文字で書かれた長い文章

遺伝情報 4種類の文字で書かれた長い文章とえいます。ガンについて研究すればするほど、このような進化の果てにある現在の私たちの姿と、ガンという病気が密接に関わっていることがわかってきたました。

私たち人類は、約60兆個もの細胞が集まって体が構成されている多細胞生物です。1つ1つの細胞は、細胞膜という脂質の二重の膜で仕切られています。その膜で守られた細胞のなかに、さらに別の膜で守られた核があります。

この小さな核のなかに、約10万ともいわれる膨大な数の遺伝子が詰まっているのです。遺伝子の存在を最初に示唆したのは、19世紀中ごろのオーストリアの牧師だった、かのメンデルでした。

えんどう豆の遺伝を長年研究した末に、メンデルが因子(エレメント)と呼んだ遺伝子の本体が、DNA(デオキシリボ核酸)という高分子の物質であることが今日では解明されています。DNAは、塩基(アルカリ性の物質)と糖がリン酸をはさんで長い列をなしたものが、2本の鎖のようにからまってできています。

塩基にはアデニン(A) ・グアニン(G) ・シトシン(C) ・チミン(T)の4種類があります。髪の毛の色、皮膚の色、目の色、その他さまざまな親から子へと受け継がれるべき遺伝情報は、すべて、この4種類の塩基の並び方で決まるのです。遺伝情報とは、つまりA・G・C・T の4 つの文字で書かれた、長い長い文章であるということができます。

この文章を、私たちは遠い先祖から代々受け継いできたのです。こうしたDNAの成り立ちは、私たち人類の祖先ともいうべき真核生物(多細胞生物) があらわれる前の、藻類や細菌などの原核生物(単細胞生物)にも共通する、生命の生命たるゆえんであることが知られています。

DNA の塩基配列、つまりA・G・C・Tの文字の並びに、置換(別の文字に置き換わる)欠失(あるべき文字が欠ける)、挿入(ないはずの文字が加わる)などの異変が生じることを突然変異といい、この突然変異によって生物の進化と絶滅が大きく左右されてきたのです。

突然変異などといえば、何やら一大事件が起きているような気がしますが、むしろDNAの突然変異は日常的に起きており、DNA修復酵素などの働きでDNAの異変は日常的に修復されているのだということを、今日の分子生物学では教えています。

そうした変異と修復の繰り返しのなかで、好気性生物が酸素の多い環境で生き長らえてきたように、突然変異が環境に適応する方向に起これば生物は進化をとげます。しかし実際には、生存に不利になるような変異もひんばんに起きており、それはやがて種の絶滅をもたらしてきたのです。

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酸素 猛毒 20億年前の生物には猛毒だった

酸素 猛毒 20億年前の生物には猛毒でした。そんなお話をさせてください。地球は今から46億年前に起きたビッグバンによって誕生したといわれています。この46億年を仮に1年365日に換算して、生物の進化の歴史を振り返ってみると、どうなるでしょうか。

正月元旦の午前0時に地球が誕生したとすると、3月中旬ごろ(35億年以上前)にはすでに最初の生命が誕生していたと考えられています。

当時の地球にはまだ空気もオゾン層もなく、地表は太陽の強烈な紫外線をまともに浴びていました。この太陽のエネルギーによって化学反応が起こり、やがて生命に必要な核酸(遺伝子の材料になる物質)やアミノ酸(タンパク質の材料になる物質)のような有機化合物ができたと考えられます。

そして4月中旬、桜も盛りを過ぎたころ(32億年前)には、最古の微生物が生息していたことが化石の研究から確認されているのです。

1年もなかば以上が過ぎ、7月下旬に入ったころ(20億年前)に、藍藻類と呼ばれる原始的な藻の一種が大発生して、やがて地球全体をおおうようになります。藍藻類の繁栄によって地球の環境は一変しました。

この藻類は太陽のエネルギーをもらって光合成を行い、水と炭酸ガスから糖をつくり、酸素を排出しました。このため、地球は一面に酸素でおおわれるようになったのです。

それ以前の、酸素がない環境に順応していた嫌気性生物にとって、酸素は猛毒で、そのほとんどが死滅しました。

かわりに、猛毒の酸素をうまく生命活動に利用する術を身につけた好気性生物が現れ、以後、地球では嫌気性生物は衰え、好気性生物が生き残ることになるのです。

8月上旬ころ(18億年前) になると、遺伝子をしっかりした膜(核膜)で包み、何世代もかかって蓄えてきた遺伝情報を大切に保護する「核」の構造を備えた生物が誕生しました。

これがヒトをはじめとする多細胞生物の祖先ともいうべき真核生物です。やがて藍藻類の吐き出しつづける酸素が、地球上にふり注ぐ太陽のエネルギーによって化学反応を起こしてオゾンが発生し、現在も地球をおおっているオゾン層が形成されます。
オゾン層のおかげで、太陽の有害な紫外線がさえぎられ、海のなかにいた生物たちが陸に上がって生活できるようになったのです。

こうしてさらなる進化に進化を重ね、ヒトが誕生したのは、暮れも押し詰まって大晦日の夜8時を過ぎ、NHK 紅白歌合戟が始まろうかというころのことです。

したがって、日本人と呼ばれる私たちの祖先が形成されたのは、除夜の鐘が響き始めたあとということになります。日本人の平均寿命は現在、女性が83.59歳、男性が70.11歳となり、世界の最長寿国とされていますが、その私たちの80年の一生は、生命の長い歴史のなかでみれば、ほんの除夜の鐘の一突きにも及ばないことになるのです。

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