血液のフリーラジカル消去作用活性を高く保つことが発がん予防になる

次に私たちは血漿中のどんな成分がフリーラジカル消去活性を高めているのか、その手がかりをつかむために、5%のブナシメジを与えたマウスの血漿を分子量の大きさによって、高分子画分と2つの低分子画分にふるい分け、それぞれの画分のアルコキシルラジカル消去活性を測定しました。

その結果ですが、ビタミンCなどの抗酸化物質を含む2つの低分子画分では、ブナシメジを食べなかったマウスのそれにくらべ、消去活性に有意差が認められませんでした。

これに対して高分子画分ではアルコキシルラジカルの消去活性が有意に高まっており、ブナシメジを食べることで血漿中にフリーラジカル消去活性を持つ高分子物質が増加していることがうかがわれました。

きのこを食べることによって、きのこに含まれる何らかのフリーラジカル消去物質が血漿や全身の細胞に補われ、発ガンの予防に役立っていることを裏づける研究は、現段階ではここまでしか進んでいません。

しかし、先ほどの岡山大学医学部の実験結果と考えあわせれば、ブナシメジを食べると1つの可能性として、その高分子タンパク質が吸収されて血液中に入り、みずからフリーラジカル消去に働くか、あるいは他のフリーラジカル消去物質をふやしているかもしれないと想像されます。

他のきのこについても、同様のメカニズムを想定できます。消化吸収された高分子タンパク質によってフリーラジカル消去活性が高まった血液は、全身の細胞をめぐりながら活発にフリーラジカルの消去に働き、細胞をフリーラジカルの攻撃から守ってくれます。

毎日きのこを食べれば、あなたの血液は常にフリーラジカル消去活性の高い状態に保たれ、このことがガンや動脈硬化などの生活習慣痛(成人病)の予防につながると考えられます。

事実、きのこの常食が発ガンを防ぐことは、エノキタケについては疫学調査によって、ブナシメジについてはこの後のマウスを使った実験によっても証明されているのです。

血液のフリーラジカル消去活性を高めるブナシメジ

このESR法で確認できたことを、かいつまんでいえば、実験的に発生させたスーパーオキシドやヒドロキシルラジカルにきのこの抽出液を加えると消去作用を発揮するということでした。

その主な活性成分が高分子のタンパク質である可能性も明らかになったわけですが、ESR法でわかったのはここまでで、きのこを実際に食べたときにその成分が私たちの体内に吸収され、細胞の内外でフリーラジカル消去作用をたしかに発揮してくれることが証明されたわけではありません。

そこで、私は静岡県立大学薬学部の佐野満昭先生と共同で、この点を確かめるべく次の段階の実験を試みました。
用いたのはブナシメジ(商品名「やまびこほんしめじ」) です。ブナシメジを乾燥粉末にしたものを10%含むエサをマウスに与えて26日間飼育したあと、マウスから血祭(血液から血球成分を除いた残りの液体) を採取します。

ブナシメジを含まないエサで飼育したマウスからも血祭を採取して、2つの血祭の間に、アルコキシルラジカルおよびペルオキシルラジカルの消去作用の点で差がみられるかどうかを測定したのです。

細胞膜や細胞の内外でフリーラジカル消去作用を発揮するビタミンC、E、β-カロテンなどの抗酸化物質は、血液によって細胞に供給されるのですから、血渠中にはこれらが成分として溶けこんでおり、一定のフリーラジカル消去活性をもともと持っています。

海外で行われたいくつかの疫学調査をみると、血中ビタミンE濃度や血中β-カロテン濃度の低い人に肺ガンなどが高率で発生しており、これらは血祭のフリーラジカル消去活性が発ガンを左右する証拠とみることができます。

その血漿のフリーラジカル消去活性がブナシメジを食べることによって高まるかどうかをマウスを使って調べたわけです。その結果、ブナシメジを食べなかったマウスの血祭は、実験的に発生させたアルコキシルラジカルの46%を消去していることがわかりました。

これに対して、ブナシメジを食べたマウスでは消去率が59%にのぼり、血漿の消去活性が有意に高まっていたのです。

この実験で意を強くした私たちは、今度は先ほどの半分、つまり5%のブナシメジを含むエサをマウスに35日間与え、血漿に含まれる過酸化脂質の変動を観察しました。

「血中過酸化脂質」は人間ドックなどの検査項目のなかにもとり入れられていますので、聞きおぼえがあるかもしれません。血中過酸化脂質は、血液中を流れるコレステロールや中性脂肪などの血中脂質をフリーラジカルが酸化したときなどに発生します。動脈硬化では、こうして生じた過酸化脂質が血管壁に沈着しますので、人間ドックではこの借が動脈硬化のパラメーターとして用いられているのです。

実験ではそれを、フリーラジカルによる血中脂質の酸化が、ブナシメジを食べることで抑制されたか、つまりフリーラジカルの消去活性が高まったかどうかのパラメーターとしてみたわけです。

結果は、ブナシメジを食べたマウスの血漿は、食べなかったマウスにくらべ血渠過酸化脂質が約23%も低下していました。これらの結果から、ブナシメジを毎日食べる習慣は、おだやかな効果ではあるが、血漿のフリーラジカル消去活性を高めに誘導し、過酸化脂質を減らす効果があることが証明されたのです。

きのこのフリーラジカル消去成分は高分子のたんぱく質

次に、スーパーオキシドの消去作用に最もすぐれていたマッシュルームの抽出液を煮沸して消去作用に影響があるかどうかが調べられました。

結果は、煮沸しない抽出液の50% 消去量(フリーラジカルを50%消去するのに必要な抽出液の量)は0・6 mgでしたが、これを100度で5分間煮沸しただけで、50%消去量は2.5 mgにふえ、スーパーオキシド消去作用が76%も減弱することがわかりました。

同様に、エノキタケの抽出液を煮沸してヒドロキシルラジカルを消去する実験を行ったところ、煮沸しない抽出液の50%消去量が0.75 mgであったのに対して、100度5分間の煮沸後は10 mg以上となり、加熱によってヒドロキシルラジカル消去作用が著しく弱まることが明らかになったのです。

きのこのフリーラジカル消去作用が加熱によって低下するということは、その活性成分の少なくとも一部が加熱によって変性しやすい成分、たとえばタンパク質であることを想像させます。

主な活性成分が高分子物質であることを明らかにした透析実験の結果と考えあわせれば、「高分子のタンパク質」をきのこのフリーラジカル消去成分の一候補として指摘しておくことができるでしょう。

きのこの高分子物質も低分子物質もヒドロキシルラジカルの消去に働く

この実験ではさらに、きのこの抗酸化物質が何であるかをしぼりこむため、抽出液を透析したものや煮沸したもので実験が続けられました。

透析というのは、小学校の理科の実験で、その原理を習ったのを覚えているかたもおられるかもしれません。たとえば食塩とデンプンを溶かした水をセロハンの袋に入れ、普通の水に浸けると、食塩は袋の外に溶け出しますが、デンプンは溶け出しません。

こうして食塩のような低分子物質と、デンプンのような高分子物質を膜で分けることを、透析というのです。エノキタケの抽出液を透析してスーパーオキシド消去作用を調べると、透析液(低分子)の消去率はわずか2.5% だったのに対して、透析したあとの液(高分子)は29.9%と透析液の10倍以上にのぼりました。

同様に、マッシュルームを透析したあとの内液(高分子)は、透析前と変わらないスーパーオキシド消去作用を示し、これらの実験から、スーパーオキシド消去に働く活性成分は高分子物質であることが想像されました。

他方、エノキタケの抽出液を透析して、今度はヒドロキシルラジカル消去作用を調べると、透析したあとの内液(高分子) の消去率が46.6% だったのに対して、透析液(低分子)のほうも11.66% の消去率を示したのです。

このことから、きのこの成分のなかでスーパーオキシドの消去に働く成分とヒドロキシルラジカルの消去に働く成分は必ずしも同じでなく、ヒドロキシルラジカルの消去には高分子物質ばかりでなく、何らかの低分子物質も作用を担っていることが明らかになりました。

ビタミンCをはるかにしのぐエノキタケとヒラタケの成分

同様に、各きのこのヒドロキシルラジカル消去作用を示したものがあります。ヒドロキシルラジカルに対しても、各きのことも抽出液の量をふやすのに伴ってより高い消去率を示していますが、50%消去量で比較すると、シイタケ、マッシュルーム、ナメコなどはレモン汁よりも多くの量が必要とされ、つまりレモン汁よりヒドロキシルラジカル消去作用が低いことがわかりました。

スーパーオキシドに対してはレモン汁の10倍の消去作用を発揮したマッシュルームが、不思議なもので、ヒドロキシルラジカルに村しては逆にレモン汁の10倍ほどの消去作用しか発揮していません。

また、ナメコはスーパーオキシド、ヒドロキシルラジカルいずれに村してもレモン汁よりも消去作用が劣っていましたが、これは抽出液のつくり方がナメコの活性成分を十分に引き出すのに適さなかったためかもしれません。ところで、この実験でも、エノキタケとヒラタケは、レモン汁をはるかにしのぐ消去作用を示していたのです。

2つの実験と考えあわせると、エノキタケとヒラタケはスーパーオキシド、ヒドロキシルラジカルをともに消去するすぐれた抗酸化食品といえそうです。消去作用の強さからみて、これらのきのこはビタミンCをはるかにしのぐ何か強力な抗酸化物質を含んでいることが想像されるのです。